あいちの伝統的工芸品

「伝産法」制定の背景

手づくりを求める心

 日本の風上と歴史の中で育まれてきた、伝統的工芸品の数々――織物、染物、陶磁器、漆器、竹製品、木工品、仏壇、人形、和紙、金工品などは、永らく日本人の暮らしに密着した生活用品でした。

 天然の原材料を使い、伝統的技法を駆使した手作業により、真心を込めて作り出されたものです。

 またそれだけに、これを使う人々も長年の間、慈しみ愛用したものです。

 ところで、経済の高度成長に伴い、機能重視の大量生産製品が、私たちの暮らしの隅々まで入り込んできました。いわゆる大量生産―大量消費の使い捨て時代、物量文化の到来です。

 しかし、身の周りのほとんどが、無未乾燥な機械生産品であることに、私たちは飽き足らなさを感じずにはいられません。日常よく用いる実用品だからこそ、愛着のもてる物、安らぎを感じられる物、潤いをもたらす物を求めずにはいられないのです。機能面はもとより、精神面でも質の高い製品が望まれてきたのです。

供給する側の危機

 使う側の要求が高まる一方、作る側はその存否にかかわる重大な局面に立たされています。

 伝統的工芸品の大きな特徴は、手づくりによるということです。が、この手工性は、戦後の機械化を柱とする近代化合理化の経済発展には馴染めませんでした。また、この手工性を損なわない範囲での、作業環境の整備・近代化も、事業者の大半が小零細であり、思うように進められませんでした。

 さらに、伝統的手工技術の継承は、一朝一夕にできるものではありません。地味な忍耐と努力を裏づけとする、長期間の修業によって初めて体得できるものです。これは、若者の都市志向、近代産業志向とあいまって、深刻な後継者難を生み出しました。

 また、原材科の確保難、流通の近代化の遅れなどの事態に直面し、伝統的工芸品産業は衰退の道を辿ることも考えられます。

 一度、伝統的技術の継承が絶えれば、再び貴重な伝統的工芸品が甦ることは不可能です。事実、産業として成立する基盤を失い、滅びていった伝統的工芸品も少なくありません。

 民族文化の保存維持という観点からは、従来より「文化財保護法」に基づき対策がとられてきました。しかし、この対策はあくまでも文化保持に必要な部分に限られており、庶民の生活用品の供給を担う産業の振興対策とは、守備範囲がおのずと異なります。

 産業的側面からは、一般的な中小企業対策がありますが、これは機械化、近代化対策が主で、手工性を生命とする伝統的工芸品産業には活用が難しいのが現状でした。

 そこで、この伝統的工芸品産業の特質に見合った振興対策が必要と考えられるようになったのです。

 以上のような背景を踏まえて、制定されたのが「伝産法」なのです。