愛知県貨物運送協同組合連合会

事務局研修会(第1回)

平成16年8月3日開催。
 場所:愛知県トラック年金基金会館 3F 第1教室
 講師:内山吾郎氏(内山流通研究所所長)
 テーマ:トラック輸送業界の現状と問題点

 本日は、「事務局研修会」3回シリーズの第1回目ということで、私に与えられたテーマが「トラック輸送業界の現状と問題点」なので、今回はまずトラック業界はいまどんな状況にあるのかをお話しさせていただきたいと存じます。そして次回以降に、それでは事業者さんは、協同組合では今後どうしていったらよいかをお話ししてゆきたいと思います。

 最近私自身大変びっくりしたというか、感心したのは、先月18日にNHKで1時間も放映された特集番組(*)です。九州のあるトラック事業者さんですが、違反もやってしまったとか、社内で決めたスピードをオーバーしてしまったとかをあからさまに映しており、600万人もの人が観て大変な反響があったようです。そこの社長さん自身も「これで荷主さんからどういわれるか心配だ」とも言っておられたようです。ところが実際には、激励の言葉が多かったようです。何時までに荷物が着かなければ、荷主からはペナルティが課せられるので、無理な運転となってしまう。これまでこうした実態が、テレビで放送されることは少なかったと思います。国土交通省の方も観ておられたでしょうから、今後どんな問題になってゆくのか注目されます。 (*)NHKスペシャル「トラック・列島3万キロ」

 また最近過積載による悲惨な事故が起こりました。トラック業者ではありませんでしたが、愛知県の会社が起こしたもので、亡くなった運転手の方も業務上過失致死容疑などで被疑者死亡のまま書類送検され、社長も道路交通法の過積載で処分を受けたとのことです。

 現実、トラック輸送がなければ経済はうまくいきませんし、食生活もマヒしてしまいます。しかし、交通事故の心配とか、運賃が安いということでご苦労されている業者の方は多いと思われます。つい最近もあるトラック事業者さんとお話ししていましたら「赤字が2千万円近くにもなった。これからどうしていったらいいのか、荷主との交渉も切実なものとなるのではないか」と悩んでおられます。こうした業界の実態は変えていかなければなりません。また変える必要があります。私も昭和28年以来50年もこの業界にお世話になり、業界の実態はかなり知っているつもりですが、トラック業者の全てが赤字になっている訳ではありません。株式を公開しているトラック業者の殆んどは黒字企業です。でも大半の業者は苦労しています。どうしても改善が必要です。どうしたらよいのか、根本的な問題はなにか、これから考えてゆくことが大事だと思います。

 平成9年に閣議決定された「総合物流施策大綱」。その大きな眼目は「競争促進による市場の活性化」です。トラックに関しては、都市間物流、地域間物流、国際物流の3つについて各施策が掲げられております。例えば、都市間物流について言えば「自営転換」が強調されています。そして現実にも、自家用車から営業用車への転換によって効率化が進んでいます。輸送効率が進むことによって、トン単価やトンキロ単価の輸送コストが下げられます。しかし、実際にはそう簡単にはなかなか効率を上げることが難しく、事故も増えてきているというのが現状です。また、この「大綱」では法律上での基準を緩やかにするということで、事実、事業者の数は増えております。経済的には規制緩和されますが、反面、社会的には規制強化という2つを同時に進めることになります。例えば、最近、行政処分の基準改正がありました。重大・悪質な違反に対しては、厳しい措置がとられ、違反点数が80点を超えると、事業の取消となってしまいます。こうしたことがこれからもどんどん進んでいくだろうと思われます。これだけではなく、輸送効率化ができるように、例えば営業区域がこれまでの境がなくなるなど、全体的には自由になんでもできるという方向にあるのは確かです。

 そうした中で、現在業界はどうなっているかを、全ト協「平成16年版トラック輸送産業の現状と課題」(いわゆる「トラック白書」)が明らかにしていますのでお手元のトラック白書をご覧いただきたいと思います。はじめに輸送の現状はどうか。「景気回復基調にある経済の動きを受けて、貨物輸送も総じて上向きに転じている」(P.7)の通り、上向きになっていると報告しています。輸送機関と貨物量の関係では、「12・13年度はトン数がマイナスの伸びでも、トンキロはプラスの伸びになるという伸び率の”ねじれ”現象をもたらす結果となっている」「14年度は、トン数ベースではすべての輸送機関が前年度水準を割り込んでいる。トンキロベースでは営業用トラックがプラスの寄与度を維持した」と、別項のとおり報告しています。(P.10〜11)


輸送機関別国内貨物輸送量の推移(抜粋)
輸送量 輸送トン数(百万トン) 輸送トンキロ(百万トンキロ)
年度(平成) 12 13 14 12 13 14
国内貨物総輸送量 6,370 6,157 5,894 577,831 580,533 570,562
(対前年度比%) (-1.2) (-3.3) (-4.3) (3.2) (0.5) (-1.7)
うちトラック 5,773 5,578 5,339 313,118 313,072 312,028
(対前年度比%) (-1.5) (-3.4) (-4.3) (1.9) (0.0) (-0.3)
営業用 2,932 2,898 2,830 255,533 259,771 262,305
(対前年) (2.1) (-1.2) (-2.4) (4.1) (1.7) (1.0)
自家用 2,840 2,679 2,509 57,585 53,301 49,723
(対前年) (-5.0) (-5.7) (-6.4) (-6.5) (-7.4) (-6.7)

 そして、輸送した重量(トン)に輸送した距離(キロ)を乗じたものがトンキロなので、つまりは輸送距離が長くなったということなんです。だから営業用トラックはいいよ、ほかは悪いよ、ということになります。皆様の実感では、そうではないという感じをお持ちの方もおありかと思いますが、全般的には以前よりは良くなっているということです。利益を上げている企業もあれば、申し上げたような赤字の企業もあります。それぞれの荷主の違いによるものかというと、そればかりではありません。長年の業界慣習とかもあり、前述の「大綱」にいう規制の緩和と同時に公正な競争も強く求められます。

 このように厳しい業界情勢の中で運送コストの合理化を進めている事業者と、遅れている事業者との差も出てきていますが、そこには自ずと規律がないといけないと思います。いずれにしても別掲輸送量表にみられるように営業用トラックの車両数は減っていますが、輸送量は増えているんですね。また全ト協の「白書」でみたとおり、トン数とトンキロ数とのねじれ現象が起きているように輸送の実態は変化しています。この変化についていくことができるかどうかが、個々の企業にとっては大切なポイントになるのです。

 また「白書」では、経営の規模によって効率性も違うといっています。全ト協の「経営分析報告書」では、車両数20台以下の規模では赤字となっています。営業収益でも、営業収益営業利益率・経常利益率でも、それははっきりしています(P33)。また、効率性については、実働率や実車率でみることができますが、やはり車両規模によって大きな較差が生じていることがはっきりわかります(P.36)。

 一方、トラック白書は交通事故の動向も報告していますが、ここでは平成15年の死亡事故件数7,456件のうち、「トラックが第一当事者となったものは2,128件で、このうち自家用車が1,474件、営業用が654件」と報告している(P.41)ことにも注目したいと思います。同白書にはこのほか、環境改善への取り組み(P.62)、スピードリミッター装着問題(P.66)などが詳細に記載されています。また、この4月には改正下請法が施行され、物流業にも独禁法の特殊指定がおこなわれ、特定の不公正な取引方法が規制の対象となりました(P.88〜92)。具体的な事例は、全ト協発行の「広報とらっく」のQ&Aに掲載されていますので、一度ご覧いただければと思います。

 このように規制緩和が進むなかで、下請法が強化されたり、行政処分の改正など交通事故や安全に関する規制が強化されております。となると、例えば過積載など違法行為ではなく、本当の意味で効率的であるということはどういうことなのか。実車率を上げるとか、稼動日数を増やすとかで他との差をつけたりとか、原価計算を徹底しコスト節減に努力するとかが大変重要なことになります。

 いま行政では、「高度かつ全体効率的な物流システムの構築のための施策」を掲げています。そしてその第一に、物流における情報化等の推進があげられています。物流事業においては、取引の効率化等業務の生産向上を目指した取り組みや、渋滞回避等外的要因の排除など、非効率の対策といった多様な側面において適切に情報技術を導入することが重要で、具体的にはいま注目されている電子タグの活用等により、フェリーターミナルにおけるシャーシー荷役等の効率化を目指しています。また地域間物流の分野においては、複合一貫物流をはじめとする物流の効率化を目指し、港湾・駅等の物流拠点や幹線部分における貨物輸送力を増強する、さらに物流拠点と高速道路を結ぶ連絡道路を整備し、トラック輸送との相互の結節の円滑化により全体輸送の効率化を図ってゆく。そして都市間物流についても、商品輸送を集約し物流効率化を図る実証実験を秋葉原電気街においておこなうため関係者と検討を進めています。

 それでは効率化はどのように進めたらよいのか。お手元にお配りした『輸送効率の違いによる輸送単位当たり運送コスト比較試算表』で、稼動日数の違いによる運送コストの比較や、実車率の違いによる運送コストの比較をしています。そして、ここではとくに実車率の違いが輸送単位コストに与える影響は大変大きいのです。そして、それぞれのトラック企業でも、この点に一番力を入れておられるところだと思います。また輸送トン当たりのコストに影響する積載効率も重要です。色々な要素や条件で単位コストが変わってくることがポイントですが、これらの算出で、トンキロ当たりのコスト、実車走行キロ当たりのコストが即座に計算できます。荷主との運賃交渉においては、一台いくらというケースはもう少なくなってきており、いまは何トン運んだからいくら等の細かい交渉となってきていると思います。そして荷主もストックポイントを移動・変更しています。つまり荷主自身も消費者の動向を考えながら、効率化を進めることを考えてきているのです。稼動日数との関係でみますと、例えばコンビニへの配送の場合、1ヶ月30日稼動のケースでは、日額の人件費は高くなりますが、実車走行当たりコストや、輸送トン・トンキロ当たりのコスト等の単位当たりでは安くなっています。このように、稼動効率の向上と実車率の向上が単位コストを合理化するポイントとなり、荷主も力を入れているというのが現実なのです。

 日通総研の調査によりますと、同じ品目でも運賃が異なっています。食料品や紙・パルプなどのように、一方で運賃が下がった業者がいれば、他方で運賃が上がったという業者もいます。また、他の荷主の動向調査では、荷主側からももっと効率化を進めるべきだ、また今後効率化が進むのは間違いないことだとの多数の回答がありました。いま運賃が荷主主動で決められていると言われていますが、実際に荷物を運んでいるのはトラック事業者の方々ですので、この辺りをもっとハッキリさせてゆくためには、荷主とトラック業者との話し合いをされた方がいいと思っております。

 事業者自身がコストを把握し、個々の費目でコストを下げる努力をしている企業は全国に沢山おります。例えば、経費徹底削減を目標に掲げ、事故防止の徹底を図り、一般道最高50km・高速道最高80kmの社内速度の設定をしたり、社内エンジン回転規定を作成し2t車2500回転、4t車2000回転、10t車1500回転と定めたり、燃料節約のため4t車6.5〜7km/l・10t車3.5〜4km/lを目標とし、またタイヤについては適切な空気圧の月1回の点検や定期的なタイヤ位置交換等を運転者に義務付けしている企業があります。荷主との運賃等の交渉がなによりも先ず一番なのですが、こうした社内的なコスト削減努力が今後ますます必要になってくるのも確実です。

 私は全国各地を訪れ、協同組合活動を拝見したりしてきましたが、この中には共同事業として「共同荷主開拓」をしている協同組合が大きな利益を上げ、成功している事例もあります。協同組合自身が、荷主開拓という営業活動をしているんですね。本当の意味で共同意識を持っているか、持っていないかが大きなポイントになってきます。そういう意味では別納制度も共同で利益を上げている事業です。協同組合活動の大切な狙いは、共同して助け合ってゆくということで協同組合の力となり、組合員企業が一体となって大きな利益を上げてゆく、ということです。そのためには、特色を出して進めてゆくことが一番のポイントだと思います。

 トラック輸送を支えてゆく皆様方、それぞれの地域での活動が貨物輸送を支えているのです。これからもそういう意識のなかで進めていただきたいと思っています。多くの問題はありますが、それを解決してゆくには共同の力が必要です。これからもこの業界において直面する様々な問題は、規制の緩和と強化に関わってきますが、それを乗り切ってゆくためには、協同組合の共同の力が重要です。

 本日は、第1回目の研修会ですので総括的なことをお話しさせていただきました。次回以降はもう少し具体的なことを、例えば運送コストの算出方法などご要望があればお話しさせていただきたいと存じます。




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