愛知県貨物運送協同組合連合会

「物流」の新しい流れ

 かなり以前から、ロジスティクスやサプライチェーン・マネジメントとかの言葉をよく耳にするようになりました。バブル崩壊後の長期化する不況に対応した物流の新しい形態というか、さらに物流を合理化しようとする企業のニーズから生まれたものかもしれません。トラック輸送事業者においても、これを受動的に受け止めるだけでなく、自ら積極的に関与・提案してゆかなければ、生き残りの道はありません。そんなことから、このページをご覧いただければ幸いです。

1.物流とは

 物的流通(physical distribution)という言葉は、もともと第二次世界大戦後のアメリカで普及し、1950年代後半日本にも導入された概念です。今では短くして一般に「物流」という言葉で使われています。

 企業の活動に必要不可欠な、原料、部品、資材、半製品、製品などのモノの物的移動に関連する諸活動が物流です。

企業の物流システム

 企業では、商品をお客の注文どおりに届けてはじめてビジネスが成立します。そのためには、何が必要かというと、まず「輸送」ということになると思います。しかし、輸送以外にもいくつかの機能がなければ、注文された商品はお客に届きません。お客からの注文に応じるために、ある程度の在庫を持っておく必要があります。その場合には、「保管」機能が必要となります。

 また、お客の注文に応じて品揃えをおこない、これを配達地域別に仕分け、トラックに積み込む「荷役」作業や、袋詰め・値札貼りなどの「流通加工」も必要となってきます。配送センターや物流センターと呼ばれる施設で、こうした一連の作業をしなければなりません。

 そして最後にトラックでお客に配達されるわけですが、もう一つ大事なものが「情報」です。お客が注文した発注情報を正確に受注し、それをもとに一連の作業のなかに的確に流していく必要があります。

 こうしてみると、商品がお客に届けられるまでには、情報、保管、荷役、流通加工、そして輸送といった機能が必要であることがわかってきます。つまり「物流」とは、商品をお客まで届ける、このような機能を包括する概念なのです。

 また、これらの諸機能を統一して管理することが物流管理といわれるものです。

2.ロジスティクス

一連のシステムとしての物流

 以上のように、工場部門において製品が生産されてから、あるいはお客からの受注によって営業部門から出荷依頼を受けてから、お客への商品の納入に至るまでの活動すべてが物流となるわけですが、これらの活動を「輸送」とか、「保管」とかの個々の作業に注目して、“こうすればいい”とか、“ああすればどうなるか”、との改善努力することはもちろん重要なことです。例えば、「保管」作業において、入荷と出荷の出入り口を別々に設けたらどうなるか、パレットラックにして保管したら作業効率が向上するのでは、といった改善方策の検討は効果的だと思われます。

 しかし、これをさらに一歩進めて、「輸送」、「保管」、「荷役」、「流通加工」、「配送」などの活動を一連の「物流システム」として考えることによって、今まで見えていなかった「ロス」が見えてきます。

 大きく三つの「ロス」を考えてみましょう。

イ 物流拠点間の商品移動
 複数の物流センターで在庫が多い、少ないといった在庫の偏在が生じると、物流センター間で商品のやりとり(輸送)をしている「ロス」が見えてくる。
→ 在庫補充のコントロールをおこない、ムダな輸送をなくすことができます。
ロ 物流拠点の在庫過剰
 工場から物流センターへの商品の持ち込みが漫然としておこなわれ、倉庫が満杯となっている「ロス」が見えてくる。
→ 物流センターでは、売れた(出荷した)分だけの補充指示をおこない、ムダな倉庫の使い方が防げます。
ハ 供給エリア外への納品
 エリア毎に配送センターを設けているのに、在庫がないなどの理由で、他のセンターから納品をおこなっている「ロス」が見えてくる。
→ 近いセンターからの集約納品によって、ムダな配送コストをなくすことができます。

 このように、輸送、保管、荷役、配送といった個々の活動別に改善に取り組むより、物流の範囲全体で考える方が、より大きな効果に繋がってくるものと考えられます。

ロジスティクス

 ロジスティクスという言葉が普及してきています。「物流からロジスティクスへ」といわれ、物流に代わる新たなコンセプトのようです。

 ロジスティクス(logistics)とは、もとはフランス語でナポレオン時代に使われ始めた軍事用語で、日本では古くから「兵站」という言葉で使われてきました。戦争では武器、弾薬、食糧やその他の膨大な軍事物資を調達して、最前線に必要な物資を必要な時に的確に供給することが必要不可欠で、その役割を担うのがロジスティクスであったのです。こうした考え方がビジネスに取り入れられて、ビジネスロジスティクスと呼ばれるようになりました。

 それでは、物流の概念とロジスティクスの概念とはどのように相違するのでしょうか。前項では、企業活動においては「輸送」、「保管」、「荷役」、「配送」などの諸機能が必要であり、これらを統括するのが物流であると記しました。物流の面から、これら諸活動をまとめてみますと、大きく三つの側面に分けられます。

  1. 原材料や部品などを調達する調達物流
  2. 工場や物流センターなど自社内でおこなう社内物流(製造物流ともいいます)
  3. 製・商品を販売する販売物流

です。そして、物流を一連のシステムとして捉えることによって、いろいろな「ロス」が見えてくるともいいました。ロジスティクスはこうした物流の各側面を統合し、調達・社内(製造)・販売のモノの流れを一元的に管理しようとするものです。

 具体的には、販売物流で市場の販売動向を的確に把握してその情報を製造や部品などの購入に迅速にフィードバックし、結果的に市場で売れる商品の的確な生産と、原材料や部品在庫の削減により、効率的な企業活動を展開しようとするものなのです。

 ロジスティクスとは、物をどう流すか(物流)だけでなく、物の作り方・売り方も考えることなのです。

 もう少し具体的にいいますと、ロジスティクスでは勝手に作ることは許されません。

  • 売れ行き情報に基づいて、「売る」ものだけを生産する
  • 生産効率だけを追求した大ロット生産ではダメ
  • 生産・補充ロットをできるだけ小さくし、在庫回転率を上げ、売れ残りを極力抑える
  • 売れ残りが利益を食う
  • 生産コストは上がってもトータルコストを下げる

 こんなことを考える必要があるのです。

 また、勝手に売ることも許されません。

  • とにかく売れた、では計画が立たない
  • 押し込み販売は実需を歪める
  • 物流サービスにはコストがかかることを認識する
  • 顧客によって提供するサービスを選別する

こんな考え方が必要になります。

 企業は、バブル期の人手不足・物流コストの上昇、さらに平成不況で物流コスト圧縮の必要性に直面して、物流合理化の重要性について認識を新たにしています。こうしたなかで、いかに効率的な物流システムを実現するかという観点から、ロジスティクスの考え方が、多くの企業に浸透し始めています。

3.サード・パーティー・ロジスティクス

 企業の経営方針は時代によって大きく変化しますが、バブル経済の時期に盛んに叫ばれたのが「経営の多角化」です。

 本業以外にもあらゆるビジネスチャンスを見つけ出し、積極的に新規事業を展開すべきであると考えられてきました。しかし、不況が深刻化・長期化するなかで、企業は改めて経営の多角化がいかに困難であるかを認識しました。結局、本業以外の新規事業からの撤退を余儀なくされている企業を多く見受けます。

アウトソーシング

 こうしたなかで、企業においては「本業回帰」の傾向が顕在化しています。その一環として、本業以外の業務は外部に委託しようとする動きが強まってきています。これをアウトソーシング(outsourcing)と呼んでいます。

 競争力があって利益を上げることのできる部門に経営資源を集中し、他の部門に関しては外部の企業に委託して、企業の限りある経営資源を有効に利用しようとするものです。

 アメリカでは、すでに 1990年代初めから企業のアウトソーシングが言われており、日本でも企業が深刻な不況に悩むなかで、その一つの対応策として、このアウトソーシングが盛んに主張されるようになってきました。

 一般の企業にとって、アウトソーシングの典型的なものの一つが物流部門です。もともと、物流部門はコスト部門であって、それ自体では利益を生むものではありません。したがって、安いコストで物流機能を代行してくれるのならば、それを外部に委託したいと考える企業が多くなってくるのは当然です。

 そもそも物流のうち輸送に関しては、自家用トラックで自社の貨物を運ぶだけでなく、営業用トラックを積極的に利用しており、今でいうアウトソーシングがおこなわれていました。今注目されているのは、それ以外の物流機能のアウトソーシングです。すなわち、商品の保管や荷役、流通加工、受発注などの機能もアウトソーシングの対象となってきました。その典型的な事例では、これらの物流機能を充足するために必要な物流センターや流通センターなどの物流施設そのものを外部委託しようとしています。

荷主企業とのパートナーシップ

 今、荷主企業はさまざまな問題に直面しています。多頻度・小口化ニーズへの対応、ジャストインタイム要請への対応、物流コストの削減などの問題に対し、荷主企業は物流業者であるトラック運送業者になにを望んでいるのか。そのニーズを把握することは、トラック運送業者の企業戦略を展開するうえでも、極めて重要なポイントとなります。

 ここで重要となるのが、トラック運送業者と荷主企業との「パートナーシップ」です。物流に苦悩する荷主企業は、一緒になって物流の効率化を考えて実践してくれるパートナーを探し求めているのです。

 従来、荷主企業は、トラック運送業者をある程度従属した関係という視点で見てきた部分がありましたが、こうしたやり方では、直面するさまざまな物流問題を解決できない、と考え直し始めてきました。

 荷主企業の物流ニーズは単なる輸送だけではありません。いかに在庫を少なくできるか、多頻度・小口化に対応した品揃えをどのようにするか、受発注をいかに合理化するか、などは荷主企業が最も頭を悩ませている問題です。そして荷主企業はこうした物流機能をアウトソーシングする意向を強めつつあります。

 こうしたなかで、荷主企業の物流センター機能を中心として、トラック運送業者が肩代わりすることが、いま強く求められています。サードパーティー・ロジスティクスもこのような流れのなかで位置づけることができます。

 物流センター機能は、荷主企業にとって物流システムの中枢的なもので、これを特定の一業者に全面的に委託するということは、その業者は信頼できるパートナーでなければなりません。また当然、物流改善のコンサルティングも求められます。

 トラック運送業者は、こうした荷主企業の真のパートナーとなれる実力を備えてゆくことが、今後の企業経営戦略において重要になってきます。

サードパーティー・ロジスティクス

 物流の一方の主体は、一般の企業であり、運送業者から見れば荷主企業です。そしてもう一つの主体が、この荷主企業の物流をサポートする運送業者ということになります。従来は両者の間で物流がおこなわれてきました。ところが、こうした荷主企業でもなく、また運送業者でもない、第三の主体、すなわちサードパーティーが出現し、荷主企業と運送業者の間に介在するようになりました。

 サードパーティー・ロジスティクスが発達していたアメリカでは、フォワーダーやブローカーが活躍しており、これらの事業者は輸送手段や倉庫を持っていないが、荷主企業のニーズに応じて運送業者や倉庫業者を選定する業務をおこなっていました。これがサードパーティー・ロジスティクスの語源となっています。

 サードパーティー・ロジスティクス(third party logistics 3PL、TPL ともいいます)は、荷主企業と密接なパートナーシップを構築して、荷主企業の物流システムを効率化し、荷主企業の物流コストを削減することを目的としています。

 一方、こうした背景として荷主企業は物流機能をアウトソーシングする傾向が顕著になってきており、従来の輸送や保管といった伝統的なアウトソーシングの分野だけでなく、荷役、流通加工、在庫管理、情報といった物流機能全般をアウトソーシングする意向を持つようになってきています。こうした荷主企業の物流ニーズを受けて、新たなパートナーシップのもとに、物流業者の事業展開としてサードパーティー・ロジスティクスが展開されています。

 サードパーティー・ロジスティクスの語源からすると、フォワーダーやブローカーによる業務と考えられますが、決してそれだけではありません。実際にアメリカでは、フォワーダーよりも大手トラック運送業者や航空便業者などが、大規模にサードパーティー・ロジスティクスを展開しています。

 アメリカでは、1990年代にサードパーティー・ロジスティクスが急速な勢いで成長してきました。これに影響されてわが国の物流業界でも、大手トラック運送業者や大手商社などが、その事業展開を積極的に打ち出してきています。わが国の荷主企業も物流機能をアウトソーシングする意向が顕著になってきており、サードパーティー・ロジスティクスの成長が期待されています。

4.サプライチェーン・マネジメント

 荷主企業の物流には、新しいコンセプトが次々と登場しています。最近までは「物流からロジスティクスへ」と言われていましたが、今では「ロジスティクスからサプライチェーン・マネジメントへ」と新たな流れが注目され始めてきています。

サプライチェーン・マネジメント

 サプライチェーン・マネジメント(supply chain management SCM とも呼ばれています)とは、直訳すれば「供給連鎖」ということですが、消費者が使用する商品は、小売業、卸売業、メーカー、そのメーカーに部品を供給する部品メーカーや、原材料の供給業者などを経て供給されています。こうした一連の過程は、商品を供給するために関連する企業が鎖に繋がっている状態で形成されています。これが供給連鎖と呼ばれるものです。

 従来は、その供給連鎖の一つにすぎない企業が、企業の中だけで物流の効率化を推進してきました。その最たるものがロジスティクスで、原料や部品の調達から販売の過程を効率化することによって、迅速な商品供給や在庫削減を実現しようとするものでした。

 しかし、ロジスティクスは、基本的には一企業内の内部の物流革新であって、閉じたシステムであったわけです。それだけでは不十分である、すなわち、最終的な消費者の満足度を満たすために、豊富な品揃え、迅速な商品の供給、物流コストを最小限に抑えることが必要であるが、これを実現するためには、一企業だけの物流効率化では限界があります。

 一企業の枠を越えて「メーカーから小売の店頭まで」を一つのシステムとして供給連鎖上の企業群がこれを管理することが必要となり、このために供給連鎖上の企業群は新たな連携を構築することが求められているのです。これがサプライチェーン・マネジメントの考え方です。こうした考え方に基づいて、小売業者、卸売業者、メーカーの新たな連携が模索されているのです。

 具体的なサプライチェーン・マネジメントの展開として、アメリカでは加工食品業界で ECR、繊維・アパレル業界では QR が実践されてきました。

 ECR(Efficent Consumer Response)の基本的なコンセプトは、加工食品のサプライチェーン(供給連鎖)に関係します。メーカー、卸売業者、小売業者が新たな連携関係を構築して、品質、品揃え、在庫サービス、利便性を高めてゆき、消費者により価値の高い商品をより低いコストで、しかもジャストインタイムで提供しようとするものです。サプライチェーンで取引関係がある企業の新たな関係形成がポイントになります。

 このため、サプライチェーンにあるそれぞれの企業は、時には従来の取引上の敵対関係から脱皮し、相互に補完し合い、支援することによって、「共生」の関係を築きます。したがって、生じた利益をサプライチェーンの企業が相互に配分します。

 さらにサプライチェーン上にある企業は、標準の EDI(注)を利用して、販売や在庫の情報を相互に共有し、効率化を達成します。必要なときに必要な商品が確実に届くような仕組みを構築するというものです。

 QR(Quick Response)の基本的なコンセプトも同様です。アパレル製品は、特定の季節での販売をおこなうために、あらかじめその季節に流行すると思われる色や柄、デザインなどを予想して、その季節より前に色・柄・デザインなどに応じた一定量を見込み生産します。それがその季節に小売店の店頭に並び、販売活動によって初めて消費者のニーズが明らかになります。

 これまで生地の製造から生地を裁断・縫製するまでの期間は比較的長期間を要し、このため市場の販売動向に迅速に対応することができませんでした。需要予測を誤ったりすると、欠品となったり、あるいは在庫として残ってしまうという事態が発生していました。

 これに対し、QR は、小売店と、生地を裁断・縫製するメーカー、生地を製造するメーカ―との連携を深め、市場ニーズに合った商品を迅速に提供できる体制を構築しました。小売店の店頭での販売動向から色や柄、デザインに対する消費者の好みを敏感に察知し、EDI(注)を通じてその情報を迅速にアパレルメーカーや生地メーカーに流すことによって消費者の好みに対応した商品を迅速に生産することができるようになりました。この体制が構築されていれば、大量の商品を事前に作っておく必要がなく、在庫リスクを減少することができるようになります。

(注)EDI= Electronic Data Interchange
 異なる企業間の取引に関する電子データ交換の仕組みで、受発注の商流情報、料金支払い情報、物流情報などが含まれています。物流EDI というのは、運送業者と荷主企業間、あるいは運送業者間の商取引に伴うデータの交換をおこなうもので、この場合のデータとは、輸送計画、配車計画、輸配送指示、貨物追跡、運賃請求などがあります。導入メリットとしては、事務の効率化、人為ミスの削減、システム投資の削減、取引先の拡大・共同事業化の円滑化などがあげられます。今後、わが国においても、トラック運送業者が荷主企業にセールス活動を展開する際には、物流EDI の話から交渉を始めることになるでしょう。

 本文は、下記の図書及び講演記録から、その多くを引用させていただきました。

  • 齊藤実著『よくわかる運輸業界』(日本実業出版社)
  • 齊藤実著『物流用語の意味がわかる辞典』(日本実業出版社)
  • 紙中英伸「21世紀のトラック事業と協同組合の役割」(2000.11.9講演)
  • 紙中英伸「IT 対応の協同組合について」(2001.7.27講演)



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